災害メンタル対策

災害時、見通しが立たない状況下で生きる5か条

日本精神保健社会学会会長 宗像恒次
  1. 自分たちの立ち直り力を信じ、良い予期をしてみる

    災害時では、見通しが立たない状況におかれやすく、悪いことばかりを考えやすくなる。だが、悪い予期だけでなく、良い予期してみるといい。良く予期をするだけで、安心、楽しさ、快感をつくりだす脳内の快感物質ドパミン分泌が増加する。良いことを(試しに)予期してみるだけでいい。圧倒される苦しみからラクになれる。ドパミンは、結果ではなく、希望や期待や信念などという良い予期をすることで分泌される性質がある。

    わたし達は人類として誕生して以来今日まで、幾多の災害や戦争などの困難を乗り越えてきた。わたし達には必ず困難を乗り越え回復する力が備わっている。時間はかかろうともこの窮地から必ず立ち直れる力があると信念を持ち、希望を捨てないことである。


  2. 気持ちの分かり合えるひとと喋ろう

    悪いことを少しでも予期すると、予期するだけで、肩こり、不眠、胃痛、頭痛など苦しみをつくるノルアドレナリンが分泌される。そんなとき、悪い予期を仲間や話を聴いてくれる人に喋るという咀嚼行動をするだけで、ノルアドレナリンが減少し、身体もこころもラクになる。喋る相手がいないとき、独り言やメモなどに書くや絵に描くという行動でも代償される。

    自分ではどうにもならないという嫌な予期が続き、無力感がつのってくると、ノルアドレナリンだけでなく、脳内でCRF→ACTH→ストレス(副腎皮質)ホルモンがでて、扁桃体が興奮し、嫌悪感を起こす情動(恐れ、怖さ、恐怖感)が生じる。その情動で前頭脳はハイジャックされ、正しい判断ができず、思い込みや妄想やパニックが生じやすく、自分で問題を現実的に解決できなくなる。

    だから、怖かった体験や悲しかった体験を親族、仲間、ボランティアなど気持ちの分かり合えるひとに語り、涙を流すと、その涙からストレス(副腎皮質)ホルモンが排泄され、恐れ、怖さ、恐怖感、悲しみ、怒りなど嫌な情動が薄れていく。また嫌な気持ちでもそれを抑えず、それをしっかり感じて何かに書くとか、絵に描くなどで発散するのもいい、すると感情処理されて、次に何をすればいいかを考えられるようになる。

    また私達は、周囲からの無関心な状況や孤立している状況下にいるよりも、周りの人の愛情や支援を感じることで、精神的な打たれ強さを獲得し、困難な状況下でも前向きにやっていこうという気持ちになれるものである。決して一人ではなく、仲間とつながっているということを意識しょう。


  3. 心に浮かぶ良い気持ちや1日1つの小さな愉しみを見つけよう

    自分の心に浮かぶ良い気持ちを大事にしましょう。感謝の気持ちや小さな幸運の喜び、安らぎのもつすばらし気持ちを見つけるのもいい。また1日に1つだけでも自分たちのできる小さな愉しみを見つけたりするといい。

    避難所などで長期に不自由な生活を続け、拘束ストレスとなりやすい、また狭いところで身体を動かさず、ジーッとしていたり、飛行機に長時間同じ姿勢で乗っていたりすることで起こりやすいことで知られている、ご存知のエコノミー症候群(静脈血栓塞栓症)となる。地震災害時の避難所生活で起こりやすいことが報告される。仲間と簡単な運動法(呼吸法、気功など)をするのも愉しみになる。また趣味仲間を持つなど、家族や仲間と一日に愉める日課をつくり、リズミ感を持つようになると、セロトニン分泌され、生きる力が生まれてくる。


  4. 追い込まれても、穏やかに現実的に対処する

    災害時、見通しが立たない状況におかれ、追い込まれれば、周りが見えなくなる。そうなると、膨らむのは思い込みと妄想である。そして疑心暗鬼になる。行き着くところ、パニックが起きる。とりあえず、「しばらくの間は様子見を決め込む」ことである。また先に述べた「お喋りやグチる咀嚼行動」を活用したり、「1日の小さな愉しみ」を取り入れることが必要である。いまひとつ効果的なのが、追い込まれた状況で「まあいいか」とつぶやくことである。特に生真面目な人には必要である。そして冷静になれたところで、今何をしたらいいか、如何すべきか・・・を考える。物事の優先順位を考えるという訳である。優先すればいいと思うことが何かひらめきで見つければ、それをすればいい。それまで獲得した価値観や信念というものは、究極の見通しのつかない状況では、まったく通用しないからである。


  5. 災害がもつ社会的、個人的意味を考える

    災害時、なぜ自分だけがこのような目に遭わなくてはならないのかと恨んだり、こうすれば良かったと後悔したり、そういう向かう対象の定まらない後悔や恨みは結局のところ内にこもってストレスを倍加するだけとなる。今おかれている境遇は決して無駄ではなく、社会的にも、個人的にも意味があることなのだと言い聞かせてみる。たとえば、社会的な意味としては、地震や津波によって原子炉による災害が引き起こされた訳であるが、チェルノブイリ事故の影響がもたらしたヨーロッパの環境政策以上に、これからの日本は原子力に頼り過ぎない発電システムに移行することになるだろう。また個人的な意味としては、見通しの立たない困窮状況を体験する者こそが、感じることができる自分の「生きる意味」や「使命」に気づけるようにもなるだろう。

SATトラウマ回避イメージ法(2011年版)©宗像恒次

災害に伴う恐れ、恐怖、悲しみは、過去の未解決な情動のフラッシュバックを引きおこし、思い込みやパニックから歪んだ認知と行動の悪循環に入りやすい。

そこで、下記のSATトラウマ回避イメージ法を、自分自身で自己カウンセリングするとか、ボランティアや興味のある周りの人に読んでもらって手伝ってもらい実施してみよう。自分がラクになるだけでなく、自己成長(自分の矛盾する感情がより少なくなること)し、自分の生きる意味がわかるようになるだろう。

現在の自分自信度   %(max=100%)
SATトラウマ回避イメージ法(2011年版)
SATトラウマ回避イメージ法(2011年版)

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